米・カリフォルニア州にあるスタンフォード大学といえば、ハーバード大、イェール大などと並んで誰もがその名を知る世界の超名門大学だ。そこでは日々、経済学や政治学など幅広い分野でハイレベルな講義が行われている。
そんな中にあって今、マインドフルネスの講義が学生の間で人気を集めているのだという。講師を務めるスティーブン・マーフィ重松さんの著書『スタンフォード大学 マインドフルネス教室』は日本でも話題になっている。
マインドフルネスは世界最高峰の教育の現場に何をもたらしているのだろうか。昨年12月にBMS-R Labで行われた重松さんによるワークショップ「スタンフォード大学で教える自己能力を高めるためのマインドフルネス」の模様をレポートする。
若者を苦しみから解放するためのマインドフルネス
ワークショップの冒頭では、重松さんがなぜスタンフォードでマインドフルネスの講義を行うことになったのか、その講義によって何を目指しているのかが語られた。
重松さんによれば、アメリカでマインドフルネスが流行っているのには、2つの文脈があるという。
一つは、GoogleなどのシリコンバレーのIT企業が、マインドフルネスの持つ生産性やリーダーシップの向上といった企業利益につながる側面に着目したこと。もう一つは、マサチューセッツ大学病院などで実践される、個人の健康を追求するマインドフルネスだ。
しかし、重松さんがマインドフルネスの講義を始めた動機は、そのいずれでもない。「若者の苦しみがこの講義を生んだ」と重松さんは言う。
ハーバード大や東大、スタンフォード大という世界の一流大学で教鞭を執ってきた重松さんは、そこで多くの若者と接してきた。大きな目標と、それを実現するための環境を持った彼らは、一般的には恵まれた存在と見られることが多いが、重松さんの目には彼らが幸せなようには見えなかったそうだ。
彼らが苦しんでいる理由、それは生きる意味が見出せないことによるものだ。「何か大きな目標に向かって頑張ってきた若者が、それが実現した時にふと虚しさを感じてしまうような場面に多く遭遇してきた」と重松さんは言う。
実際、重松さんの息子が通っていたパブリックスクールでも、4人の若者が自殺するという悲しい出来事が起きた。こうした苦しみから若者を解放するために何かできることはないか。そう考えた重松さんが3年前に始めたのが、このマインドフルネスの講義ということになる。
「ハートフルなコミュニティを築くこと」としての教育
「若者は心の教育を求めている。しかし従来の高等教育はこうした若者の望みに応えているとは言えないものだった」と重松さん。というのも、大学の教授たちは「知識や情報を与える人」であることに徹していて、「一人の人間」として学生と接することの必要性を認めてこなかったのだという。
だから重松さんが実現しようとしている教育は、こうした従来のものとは一線を画す。「自分が実現しようとしているのは、ハートフルなコミュニティを築くようなことだ」と重松さんは表現する。
ハートフルなコミュニティとはどういうことだろうか。より具体的に説明するために、重松さんは次の3つのコンセプトを紹介した。
Providing Integrative education.
日本にも総合学習という言葉があるが、人生そのものをIntegrateするような教育ということだ。しかも、educationの語源であるラテン語のeducereにlead out(=引き出す)という意味が込められていることから考えると、その教育は外から与えるようなものではない。人生をより良くするための知恵はその人自身にあらかじめ備わっているという考えに基づき、それを引き出すような教育ということだ。
Making safe space to be vulnerable and shore.
大学には人種やジェンダーなどの違う様々なバックグラウンドを持った学生が集まる。そうした学生たちがお互いを認め合うためには、教育の現場が、一人一人が自分自身の弱さをさらけ出すことができる安全な場所である必要があると重松さんは言う。
Connecting students to each other and to professor.
学生の多くは他の学生と、さらには教授ともつながることを望んでいるという。しかし前述のように「知識や情報を与える」場所としてのみある授業の中では、そうしたことは実現することが難しい。重松さんの講義では、お互いが人と人としてつながれることも意識しているそうだ。
そして、こうしたことを実現するためのベースとして、マインドフルネスがある。
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