医学系専門誌『臨床スポーツ医学』が昨年8月号で初めて、丸々1冊を使ってピラティスを特集したのをご存知だろうか。
このことは多くのピラティス関係者を喜ばせることになった。なぜなら、ピラティスが医学的見地から見ても信頼できるメソッドであるということが、日本においても認められてきていることを示す象徴的な出来事だったからだ。
ピラティスの「本場」であるアメリカでは、もちろん日本に先駆けて医療とピラティスの親密化が進んでいる。理学療法士でPMA認定のピラティスインストラクターでもあるサマンサ・ウッドさんは、そうした動きを先導してきた一人だ。
南カリフォルニアでピラティスと理学療法が融合された施設の代表を務め、クライアントの怪我の治癒にどのようにピラティスを活かせるのかを情熱を持って研究している。また、その成果を元に世界中で指導にあたってもいる。
ピラティスと理学療法の融合は、お互いにどのような化学変化をもたらしたのか。養成コースの指導のために来日中だったサマンサさんに、アメリカにおけるピラティスと理学療法の結びつき、医学的見地からみたピラティスの有用性をテーマに話を聞いた。
―サマンサさんの施設では、どのようにしてピラティスを理学療法に取り入れていったのですか?
最初は数台のリフォーマー(ピラティスの代表的な器具)を購入し、それを使ってもともと行っていた理学療法のエクササイズをやるところから始めました。2000年のことです。オーストラリアではすでに同様の取り組みが始められていたようですが、当時のロサンゼルスで同じようなことをやっていたのは、私の他にはまだ1箇所しかありませんでした。
ピラティスの器具はリハビリに非常に有効なんです。脊柱のニュートラルポジションを保つことができますし、支持面が大きいので、安全にエクササイズを行うことができます。
それに、ピラティスのエクササイズには機能的な動きが多い。歩いたり、屈伸したりと、日常生活に必要な動作に似せて動くことができます。
―ピラティスを取り入れたことで、患者さんの反応に変化が見えましたか?
ピラティスをやり始める前は、患者さんにホームワークを課してもやってくれないということが多く、だから次に来た時もまた腰痛を発症している、ということが頻発していました。
けれどもピラティスを始めたことにより、患者さん自身がリハビリを楽しめるようになりました。かつ効果も実感できるので、特別にホームワークを課さなくても自ら進んでやる人が増えました。その結果、早く回復していくことが増えていきました。
伝統的な理学療法では、膝を痛めた場合は膝に対して施術をしていく形を取ります。それは言ってしまえば、患者さんにとっては少々退屈なものです。一方でピラティスは、膝を痛めていたとしても全身に対してアプローチしていきます。だから楽しんでやれるし、マインドも含めた身体全体の状態が良くなっていくのです。
―患部だけでなく、全体を見直すことが重要なんですね。
その通りです。ピラティスでももちろん痛い部分に焦点を当てることはしますが、同時にコアや呼吸に意識を向けるということも必ずついてきます。器具自体がそういうコンセプトで設計されているので、必ず全身が関わっていくことになるのです。
―15年続けてきて、始めた当時とは医学的な世界からの見られ方は変わりましたか?
大きく変わりました。始めた当時は、クライアントの人が病院で「リハビリの一環でピラティスをやっています」と言うと、医師から止められることがすごく多かった。だから私としても「ピラティスをやっています」とは書かずに、「こういうエクササイズをやっています」というふうに表現の仕方にすごく気を使う必要がありました。
それが今では、時には医師の方から「ピラティスをやってください」という処方箋が出るケースさえあります。
―処方箋にピラティスというのは驚きです。では、理学療法にピラティスを取り入れる例自体も増えているのですか?
私が活動しているエリアでは、少なくとも1台はリフォーマーを置いているという理学療法の施設がかなり増えました。
ただ、アメリカ全土でそうというわけではありません。フィラデルフィアやワシントンD.C.で活動している友人の話を聞くと、まだピラティスが全く認められていない地域も少なくありません。私のいるカリフォルニアは先進なので、そこから全国へ広がっていったらいいと思って活動しています。
―日本ではまだ、ピラティスはセレブが美容やコンディショニングのために行うもの、という認識が一般的です。アメリカで徐々にそうした認識が改められていったのは、何がポイントだったと思いますか?
一つは、学術的な研究です。いろいろな人が研究をして論文になり、エビデンスが増えることで人々が安心するというところはあると思います。
もう一つは、ドクターを施設に呼んで、実際にピラティスを体験してもらうという取り組みをやってきました。ドクターにマシンに乗って体感してもらうことで、「ああ、これは危険じゃない。むしろすごく有用なのではないか」と認識を改めてもらうことができました。
―たしかに専門家に体験してもらうというのは効果が大きそうですね。一方で一般の人の意識を変えてもらうという意味ではどうですか?
ケーススタディを積み重ねることではないでしょうか。
たとえば私が今回の来日で指導したクラスの受講生は、理学療法士や鍼灸師の方々です。そうした人たちは日々、さまざまな患者さんと向き合っています。その治療にピラティスを取り入れてみたらどうだったのかというのを、それぞれドキュメントにしていく。それを一般の人にも読めるような形で公開すれば、ピラティスが本当に有用であるということが徐々に知れ渡っていくはずです。
一方ではセレブや有名人をうまく使うこともできますよね。彼ら彼女らが「首が痛かったのがピラティスによって良くなった」と言えば、ものすごい影響力があるでしょうから。
続きは後編で。
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