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小椋久美子さん02

仕事や趣味で最高のパフォーマンスを発揮するにはどうしたらいい?

悩みや不満など、ネガティブな気持ちはどのようにして解決すればいい?

心と身体に休息を与えて、心身のバランスを上手に保つ方法は?

 

現代社会はストレスとの闘いです。「こころを整える」ためにどうすればいいのか、各界の著名人をゲストに招いてCOCOLOLOライフmagazine編集部がメンタル面の変化に着目しながら切り込んでいく「こころトーク」。

今回のゲストは、前回に引き続きバドミントンの女子ダブルスペア日本代表として「オグシオ」コンビで世界中を沸かせた元女子バドミントン選手の小椋久美子さん。
COCOLOLOライフmagazine編集部の板生研一(WINフロンティア㈱代表・医学博士)との対談形式で、これまで最もプレッシャーを感じた試合や大会について語って頂きました。

 

オリンピックにおける自分たちの立ち位置は?
ひたすら練習に励み自信をつけるしかなかった

編集部(板生):バドミントン選手として国内外で活躍されていましたが、これまで最もプレッシャーを感じた試合や大会といえば?

小椋:そうですね…、初めて2連覇を達成した時と、日本代表の団体戦、あとは北京オリンピックですね。

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編集部(板生):オリンピックは通常の大会とは違って、世界で最も大きなスポーツの祭典ですよね。今だから言えることってありますか?

小椋:今だから言えること…。オリンピックは空気感や雰囲気が全く違うんです。
自分の中で準備をしておかなくちゃ!という気持ちがあって、バドミントンの練習はもちろん、メンタル面の準備も必要で。
オリンピックという舞台自体がどんな場所なのか、私自身が理解をしていなかったから、先輩方の話を聞いて教えてもらいました。
とはいえ、「立ってみないと分からない」という結論に…。
だからこそ、どんな場所なんだろう?立ってみたいなと気持ちが高まりました。事前準備がどうしたらいいか分からずでしたが、メダルは取りたい!という気持ちは本気で、(参加選手全員の中での)自分たちの位置づけについては考えましたね。

 

編集部(板生):自分たちの位置づけを考えるって、すごく大切なことではないですか?

小椋:そうなんです。
オリンピックに出場するバドミントンのダブルスは全16組。
その中で自分の今の位置づけはどこなのか?とリアルに考えました。
で、考えた結果、たぶん今の位置づけではオリンピックでメダルを取ることができないと判断になりましたね。
自分の中で、今のレベルじゃ力が足りないって。
例えば、対戦相手で何度か勝ったことがある選手がいたとしますよね。10回の対戦で勝率5分5分ならまだしも、1回だけの勝利では自信がないんです。
勝てるかどうか分からない不安しかない状況が続いたときは、どうすればいいのか悩みました。
技術的なことを追いかけたりフィジカルな部分を鍛えようと思っても、限られた期間の中で作り上げることは難しくて。だからもう、ひたすら練習に集中して自信をつけるしかなかったんです。

 

オリンピックという大きな舞台に向けて、
自分を追い込みすぎた結果・・・

編集部(板生):オリンピックに出場するということは、本当に大きなプレッシャーなんですね。今の自分のレベルを冷静に判断され、限られた期間内でできることを思いっきりやろうとした小椋さんの精神力、スゴイと思います!

小椋:それが、そこで失敗してしまったんです。
どんな世界なのか分からないオリンピックに立ったとしても、思いきって闘えるように自分の中で自信をつけよう!と何度も心にたたき込みました。

でも、オリンピックという大きな壁に先を見すぎてしまって、自分を追い込み過ぎてしまったんです。
精神状態が安定していると「あ、これ以上やると絶対にケガをするな」「疲労が溜まっているから休養しなくちゃ」と自分の疲労度について客観的に判断ができるのに、オリンピックだからそれどころじゃなくて!
もう、疲労度を判断する余裕もなくメンタル面を追い込んでしまいました。

オリンピックまでの残り3カ月間、繰り返しケガが続き、骨に傷がついてしまうくらいの大ケガまで負ってしまい…。自分自身の現状も判断できず、3カ月後のオリンピックばかりを見過ぎていたんですよね。
今考えると、それが良くなかったなって。
結局、その精神状態でオリンピックに出場しているから、自信もない、ケガもしている、万全の体勢でもない…。
初めてオリンピックの舞台に立ったとき、完全に飲み込まれていました。

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編集部(板生):心身のバランスが崩れると、ベストな状態で闘いに臨むのはさらに難しくなりますよね。

小椋:オリンピックに立ってみてわかったのは、4年間の想いが予想以上にのし掛かってくることを肌で感じましたね。
犠牲にしてきたものもあるし、掴み取りたいものだという想いもあって。
オリンピックに出場していた他の選手でも、緊張感に負けてしまった人や本来の力を発揮できないどころか、シャトルにさえ当たっていない試合光景を見ると「あ、トップ選手でもこうなるんだ…」と余計に緊張したりして。

オリンピックが持つ独特な空間の中で、身体が動かないし、思考は停止…という最悪な状況で試合をしていました。
変な話、解決策が見いだせずに不完全燃焼のまま終わってしまいました。

いつもなら試合の中でシーソーゲームのように点数の駆け引きをしながら取り合っていくことを楽しめるのに、オリンピックのときだけは、シーソーゲームが苦しくて逃げ出したいと本気で思いました。

 

編集部(板生):北京オリンピックの2試合目は、中国人ペアとの対戦でしたが、地元の選手との対戦は更に大きなプレッシャーを感じるものなのでしょうか?
テレビで見ていても、地元の人の応援とか掛け声がすごかったですよね。
そういう外野の声も気になったりしましたか?

小椋:聞こえますけど中国語なのであまりよく分からず(笑)中国の国際大会って、いつもあんな感じなんですよ。
でも、オリンピックはちょっと異常でしたけどね。
私たちより先に他の日本人選手が中国人選手に勝利していたから、中国側としては絶対に負けられない!という想いが国全体で団結していたと思います。
声援はそこまで気になりませんでしたが、その異様な光景だけは全身で感じましたね。

 

編集部(板生):やはり、4年に一度のオリンピックは別格なのですね。

小椋:国からの保証や支援が貰える国もあるから、死に物狂いで参加してくる国もありますよ(笑)オリンピックには魔物が棲んでいると言われますが、たぶんそういうことなのかなと思います。

 

オリンピックは出場回数が多い程有利

編集部(板生):何度かオリンピックに出場すると「慣れ」ということはあるんでしょうか?

小椋:慣れるというよりは、絶対にオリンピックの空気感を知っていた方がいいなとは思います。
でも、あの空気感を知っているからこそ私は「怖い」と感じるかも。

前回のリオオリンピックに解説で訪れたのですが、全ての試合が終わった後に、メインコートの近くで写真を撮らせてもらったんです。私からすれば聖地だと思っているその場所に、ただ立っているだけでも、あの北京オリンピックでの苦しい思い出が恐怖感とともに蘇ってくるような感覚でした。

もし、そのときの私が世界選手権で優勝をしていたら、また違う感覚だったと思うのですが、北京オリンピック3カ月前の心理状況になっていたというか。
だから、何度かオリンピックに出場をすることで「あの時はこんな失敗したから、次のオリンピックはこうしよう」と自分を分析する判断材料になるはず。
そういう意味では、何度も出場している方が絶対に有利だと思います。

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北京オリンピックで大健闘を果たしたものの、その裏側には自分自身との壮絶な闘いがあったと語ってくれた小椋久美子さん。今回は北京オリンピックに焦点を当ててお話を伺いましたが、次回のインタビューでは現役時代に最も苦しかったことについて、その時の心境を話してくれました。一流アスリートが壁にぶつかる瞬間とは?そしてどのようにして乗り越えていったのか?どうぞお楽しみに!

掲載元

COCOLOLO ライフ magazine 編集部